びくんと体が跳ねて、目が覚める。筋肉の痙攣だ。頭が痛い。割れそうに痛む。はっと体を起こすと、「けいし」と言った制服姿の男が目の前に立って、目をみひらいている。別れた恋人の里貴だ。でも、どうして彼が制服姿なのか。彼は会社員で、警察官ではない。しかもその制服は、警察官が着る制服とは微妙に違っている。

 部屋の中を見回すと、表彰状があり、そこに「志麻由子警視殿」とある。私は、巡査部長であって、警視ではない。しかも「東京市警察本部長」とあるが、東京は「都」であり「市」ではない。何が起きているのか、由子にはわからない。

「今日は何日?」と尋ねると、里貴は「七月十一日、土曜日です。光和二十七年の」と言う。こうわ、とは何だ。

「こうわ、の前は何?」

「承天です。承天五十二年に戦争が終結し、元号が光和にかわりました」

 ここまでで23ページ。アジア連邦はオーストラリアを中心とした太平洋連合に戦争では勝ったものの、長い戦いに経済は疲弊し、物資は配給制になっている。日本はエネルギー資源に乏しいので銀座は薄暗く、犯罪組織がはびこっている。警官の汚職も多い。アメリカは戦争に負けてメキシコに吸収されている、というところまでが65ページ。

 つまり、志麻由子はもう一つの世界にスリップしてしまったのである。機械メーカーの営業マンだった里貴が警察官になっているように、巡査部長の由子が警視になっているように、二つの世界は微妙に異なっている。ここから驚くべき物語が展開していくが、読書の興を削がないために、この先は紹介しないほうがいいだろう。はたして由子は無事に元の世界に戻ることが出来るのか。いやあ、面白い。

 いい機会なので最後に一つ、個人的なお願いを書いておく。一度でいいから動物小説を書いてくれ!

 中年男が犬と一緒に、少年時代の自分に会いに行く話なんて最高だ!