暑さ対策では奇策も講じられた。8月17日に大井競技場で開かれたホッケーでは、選手の体を冷やそうと、氷入りの水風呂「アイスバス」が控室に登場。氷はこの日だけで約1トン分が用意されたという。

 だが、インド選手は「湿度が高いので疲れた。日本の暑さは体温コントロールが難しい」と嘆いた。大会関係者によると、昼にあった女子のインド-日本戦で、ピッチ上の気温は最高で39度。日本の高温多湿の暑さは、慣れていない外国人選手にダメージを与えたようだ。

「今から舗装を変えるのは、間に合いません」

 こう表情を曇らせるのは、医学博士で東京農業大学教授の樫村修生さんだ。

 樫村さんの調査チームは、東京都が五輪の暑さ対策として整備している「遮熱性舗装」の効果について研究を行い、8月30日に速報値を学会で発表した。

 都はマラソンコースを含む都道約136キロに、路面温度の上昇を抑える遮熱性舗装などを整備している。約95%に当たる約129キロは18年度末までに整備を終えているという。

 樫村さんは7月26日の晴天の日、つまり五輪時の天気に近い条件で遮熱性舗装の道路と環境温度を調査。結果は「アスファルト道路より、遮熱性舗装道路のほうが体感温度が高くなり、熱中症などのリスクが高まる」というものだった。

「遮熱性というだけあって、照り返しが強くなってしまう。日が照っている時間では命にかかわる危険な状態になります。特に地上から50センチが最も高温になる。マラソンコースの沿道にも整備されていますから、小さな子供やお年寄りらには帽子や日傘が必携ですが、それでも皮膚や目にはよくありません」

 樫村さんは最悪のケースも想定されると訴える。

「例えば(会場に)入場するために遮熱性舗装の上に列ができる。熱中症で一度に多くの人が倒れていく。こうなるともはやテロと一緒。今からでも真剣に熱中症対策を考えるべきです」

 暑さ対策について、組織委の担当者はこう回答した。

「本番大会時においてどのような暑さ対策を行っていくかについて各競技の特性によっても異なるため、引き続き各競技団体と連携しながら、テストイベントでの検証結果を踏まえ、検討していきます」

 観客に対しては、大型冷風機などを配備する方針だという。(本誌・今井良、大崎百紀)

週刊朝日  2019年9月20日号より抜粋