今シーズンのチーム低迷を招いた一人だけに厳しい視線が注がれる(c)朝日新聞社
今シーズンのチーム低迷を招いた一人だけに厳しい視線が注がれる(c)朝日新聞社

 巨人の澤村拓一の周辺がにわかに騒がしくなっている。9月10日に球団が澤村の不調の原因を「球団トレーナーの鍼治療での施術ミスによる可能性が高い」と発表し、診断結果を「長胸神経麻痺」とした。これを問題視した鍼灸(しんきゅう)団体から猛反発を受けるという事態に発展している。

 澤村の今季の1軍登板はゼロ。9月1日に今季初めて1軍に昇格したが、マウンドに上がることなく4日には出場選手登録を外れた。詳しい説明もなく、その原因が鍼治療だとされては黙っていられないだろう。

 思いもよらぬ形で注目を浴びてしまった鍼灸業界は信頼が揺らぎかねないこの発表を受け、球団に対し、21日付で質問状を送付した。鍼治療と長胸神経麻痺の因果関係を問う内容だ。

 原因は鍼治療なのか。「長胸神経麻痺」は別名「リュックサック麻痺」とも呼ばれ、長時間の圧迫などによって神経が損傷すると筋肉が麻痺し、腕を上げられなくなるのが特徴。質問状を送付した全日本鍼灸学会に改めて聞くと、「鍼施術によって長胸神経麻痺が引き起こされる可能性は極めて低いと考えます」と回答。海外の症例報告を見ても因果関係を示すものはないという。そして続けた。

「野球選手であれば、投球動作に加え、筋力トレーニングは一般的に行われているのが常であり、これらが原因となった可能性は否定しきれないと考えます」

 現場からも戸惑いの声があがる。都内で鍼の治療院を営む鍼灸師の男性は、

「同業者同士でおかしいよねと首をひねっています。日本の鍼は非常に細いので、末梢(まっしょう)神経を突くこと自体が難しい。そもそも長胸神経は感覚神経ではなく、運動神経なので、わざわざ刺激してあげる必要がないんです。巨人のトレーナーは優秀だと評判で、ミスをするとは思えません。今回の発表は不可解としか言えない」

 と語り、医師の診断にも疑問を投げかけた。

「治療に使う鍼のことをろくに知らずに診断する医者もいます。鍼の現物を知っていれば、今回の診断がおかしいとわかるはず。時系列的に鍼治療をしたことがあるというだけで鍼のせいにされてはかないません」

 巨人はどう説明するのか。その見解を待ちたい。(本誌・松岡かすみ、太田サトル、秦正理、永井貴子/黒田朔)

週刊朝日 2017年10月13日号