作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は増え続ける萌えキャラをテーマに筆をとる。
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それを見た時は一瞬、我が目を疑いました。高島屋のお中元のポスターが、今年、なぜか、萌えキャラになっていたんですよ、奥さん! 咲きほこる朝顔の間に浴衣を着た美少女がぽーっと突っ立っているイラストで、タイトル「朝顔と美少女」ってところでしょうか。ポスターだけじゃない、カタログの表紙も二次元美少女。さらに本店には、大きな二次元美少女ポスターがドーンと飾られている。
高島屋広報を取材した雑誌によると“お中元とは縁のなかった若いお客様にも興味を持っていただくため”の策なのだそうですが、どうなんでしょ。少なくとも私の周りの女たちからは、「私たちは客だと思われてないね」「今年は他社さんで」という残念な声しか、聞こえてきません。
それにしても、「若者に訴える」=「萌えキャラ投入」という傾向が最近、加速してないですか?
サミット前に三重県志摩市が、乳首が透けて見えそうな海女の萌えキャラを発表して大きく問題になったり。岐阜県美濃加茂市の観光協会が、頭よりも大きい胸を強調した萌えキャラを観光ポスターにして批判を浴びたのは、記憶に新しいですよね。
また、日本を代表する企業(ですよね)トヨタが、新型車のCMで、車の部品を萌えキャラで擬人化しているの、ご存知でしょうか。「その部品の一つ一つに魂が宿り、強く美しい少女の姿に……」という男のナレーションと共に、二次元少女がサスペンションとして現れ「いつでも支えているから」とか、高剛性ボディらしき少女が「あなたと、強くなりたい」とアニメ声で語るCMを見た時は、のけぞりましたね。部品と化した数十人の美少女を感じながら運転するんですかね。その車のドライバーに、これから険しい眼差しを向けてしまいそうです……。そうそう、朝日新聞も以前、天声人語を女子高生の萌えキャラに読んでもらうアプリ、作ってましたっけ……。
厳しい時代を生きるオジサンたちは、少女のファンタジーに、すがるしかないのでしょうか。そこに本気で活路があると思ってるのでしょうか。というか、ただ破れかぶれなの?
一つわかるのは、萌えキャラを、まるで「新しいこと、始めました!」という調子で活用する人たちには、同じ社会に女という生き物が生きていることが見えていないということ。
ハッキリ言いますが、大人の女の多くは、少女ファンタジーにしがみつく大人の男を、キモイと思っています。萌えキャラがキモイ、というよりも、萌えキャラを重宝し濫用する男社会がキモイ。少女に向ける眼差しやファンタジーの過剰さに困惑し、どう身を置いていいかわからなくなるのです。なぜ男たちは、ここにいない少女たちを、執拗に求め続けるのか。その眼差しの空虚さに、恐怖するのです。
※週刊朝日 2016年7月15日号