作家・室井佑月氏は、日本のメディアは権力者に良いように利用されているという。

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 みんな、舛添さんの公金ちょろまかし騒動は興奮したね。なに? 舛添さんが辞任することになって寂しい? それって、「舛ロス」っていうんだって。

 なぁに、少しの我慢よ。すぐに、新たな生け贄が出てくるって。

 これまでもそうだったじゃん。舛添さんの前にはベッキーちゃん、小保方さん、佐村河内さん……。

 え? 怖くなってきた? 大丈夫。公開処刑される人々は、それぞれの業界で成功し、良い目を見てきた人だもん。

 あたしら、成功したことないじゃんか。死なないから生きているだけの、我々がターゲットになるわけないわ。

 いやぁ、ほんと公開処刑は楽しい。代わり映えがしない毎日が意外といちばんなんだって、しみじみと思えるよねぇーー。

 これが今この国の大多数なのだろうか。醜いよ。自分のほうがマシという気持ちが生きる支えで、そのために他者を叩く。ヘイトスピーチ団体と一緒だな。

 6月16日付の思想家・内田樹さんのブログ「内田樹の研究室」に、フランスのルモンド紙を訳した記事が載っていた。この国の舛添騒動について書かれた記事だ。

 ルモンドの情報筋によれば、<この攻撃は計画的なもので、官邸の暗黙の同意を得て行われた>という。

 そして、<政府にとって不都合ないくつかのニュースが結果的に報道されなかった>という。

<知事についての報道の開始は、英紙「ガーディアン」が2013年にブラック・タイディングに対してなされた130万ユーロの資金流入についてのフランス当局の捜査について報じた5月11日と同時期である>

 東京オリンピック招致のための賄賂疑惑だ。

<日本では、このニュースは二人の人物を巻き込む可能性があった>

 森喜朗元首相とJOCの会長の竹田恒和さん、バッチリ名前も書かれていた。

 それだけじゃない。

 
<(舛添騒動は)「パナマ文書」の暴露とも同時期だった。(中略)日本のメディアはこれについてほとんど何も報道していない>

<7月10日の参院選の選挙戦のスタートが丸ごと隠蔽された。これはさまざまな批判、とりわけ経済政策の失敗についての批判を回避しようとしていた政府にとってはまことに好都合なことだった>

 内田さんはこの記事を受け、

<自国で起きていることの「文脈」を知るために逐一海外のメディアを参照しなければならないという恥ずべき現実を日本のメディアはどれくらい実感しているのだろうか>

 と書かれていた。

 はっきりそういいたくないけれど、あたしは「恥ずべき現実」というものの中に、この国のメディアと、それを喜ぶこの国の人たちも確実に含まれていると思う。それぞれの心の後ろ暗さが、権力者に良いように利用される。そして、物事が正しく動いていかない。

週刊朝日 2016年7月8日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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