ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌新連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、三代目J Soul Brothersの岩田剛典(いわた・たかのり)さんを取り上げる。

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『がんちゃん祭り』が凄いことになっています。スマホのニュースサイトなんかを覗いていると、がんちゃん関連の芸能記事が常にトップ扱いという異常事態。こちら週刊朝日でも、がんちゃんが表紙を飾った6月3日号は、なかなかの売れ行きだったとか。40代オカマの私のところには、祭り囃子(ばやし)も神輿(みこし)の掛け声も聞こえてこないのが不思議ではありますが、とりあえず歳のせいだろうってことにしておきます。

 確かに2年ぐらい前から、20代のタレントやアイドルの女子たちに「今、若者的には誰なの?」と訊けば、「そりゃ、がんちゃんでしょ!」と返ってくるのがお決まりになっていました。彼女たちが実際“がんちゃん”にお熱かどうかは別として、客観性を込めての「がんちゃんで決まり!」という共通認識は、立派な『アイドル現象』と言えるでしょう。九ちゃん、トシちゃん、慎吾ちゃん。昔から、ちゃん付けで呼ばれる男性アイドルは、より“国民的”愛され感が強い印象を受けます。ここまで読んでも「で、がんちゃんって誰?」とお思いの貴方。大丈夫です。私も「がんちゃん」といったら、即座に岩本恭生を思い浮かべるひとりですから。

 がんちゃんというのは、三代目J Soul Brothersのメンバーでらっしゃる岩田剛典さんのこと。名前だけ見ると、キャリア15年ぐらいの若手演歌歌手みたいですが、いわゆる“エグザイルの人”です。そんな「岩(がん)ちゃん」が、とにかく今若者に絶大な人気を誇っている。私が知らなかっただけかもしれないことを、読者の皆さんにも押し付けてみました。

 
 なんでも、がんちゃんは『当代きっての王子様』だそうです。甘く柔らかい顔立ちと、ダンスで鍛え上げられた肉体、そして慶応卒という賢そうな経歴。私とさして変わらないような気もしますが、たぶん私と違って、あらゆることに正面から貪欲に向き合って生きてきたんでしょうね。王子様と女装。童話になりそうな人生訓です。

 しかしながら、このバランスの良過ぎるスペックに、違和感を覚えるのは私だけでしょうか?そもそも王子様とは、もっと不安定でリスキーな存在だったはず。だからこそ白馬なんかに乗っていても許されるわけですし、歴代の王子様たちを思い浮かべてみても、沢田研二、岡村靖幸、YOSHIKI、小沢健二、及川光博、氷川きよし……。皆どこか突飛で過剰な自意識と、恥ずかしくなってしまう耽美さやケバさがありました。

 そこへきて「がんちゃん王子」ですが、王子様にしては安全性と実用性が妙に高い感じがします。「夢を見るなら、もっと堅実な夢を!」的な時代のニーズでしょうか。現実逃避した先にも、ちゃんと自分の日常は確保しておきたいという強欲な矛盾。世間体を気にしなくてもいい無難なファンタジーを満たしてくれるという点で、がんちゃんは現代の王子様にはぴったりなのかもしれません。YOSHIKIやオザケンの壁ドンには純粋な恐怖がありますが、そこまで危険な中毒性よりも、アレルギー物質ゼロの無臭ニンニクが主流になりつつあるのでしょう。「がんちゃん萌え~」と騒ぐ自分は、さほどイタくは見えないだろうという安心感。なんか貧乏臭い。

 そう考えると羽生結弦は、やはりとんでもない男です。このご時世において、あの実用性の無さと言ったらもう。贅沢品!

週刊朝日  2016年6月24日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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