電気事業連合会が日本原子力発電に依頼してこの3月に発足させた「原子力緊急事態支援センター」が福井県にあるが、そこにある機器は、放射能が漏れ始めた後の高線量下での活躍を想定したロボット類が中心。給水ポンプや大容量の発電機はない。

 ポンプ車や電源車について、日本の原発は福島事故の後、発電所の敷地内に急ピッチで備えつつある。その数は、アメリカの原発が敷地内に備えているポンプや発電機など「フレックス」機器をはるかに上回っている。たとえば、東京電力の柏崎刈羽原発には42台の消防車があり、視察した米国の原子力業界関係者が「東京消防庁が新潟に引っ越ししてきたのか」と驚くほど。これはもちろん、福島第一原発事故の教訓を受けての配置だ。

 しかし、発電所の外からの支援の準備や計画、訓練については米国に劣る。

 九州電力の原発では、福島事故後に新たに配備した電源車やポンプ車にナンバープレートがない。公道に出るときにはナンバープレート取得済みのトラクターヘッドに交換すると九電は説明するが、そのトラクターヘッドが社内には配備されていないという。これでは、九電の川内原発で万一があったときに、同じ九電の玄海原発からポンプ車を派遣しようとするのに、余分な時間がかかってしまうだろう。もちろん、他の電力会社の原発へのポンプ車などの支援は基本的に想定外で「要請があれば状況を踏まえ検討する」ということになっている。

 原発敷地内の機器は原発と一緒に被災して同時に使用不能になるリスクがある。だから、外部の支援を迅速に受けられるようにする必要がある。それもまた福島原発事故の貴重な教訓だった。米国はそれに学んだが、日本は逆に、外部支援なしでもやっていけるようにしようという道を選び、それに固執しているように見える。
同じ福島原発事故から日米は相異なる教訓を見いだした格好だ。(朝日新聞編集委員・奥山俊宏)

週刊朝日 2016年3月25日号より抜粋