「『どうせ認知症だから』などと、入所者を人間扱いしない風潮が職場にあれば、今井容疑者もそこに同一化していた可能性があります。ギスギスした職場で上司や先輩への不満があったとしても、自分より弱い入所者にそのはけ口を求めてしまう。仕事の困難さに比べ金銭面の待遇が悪すぎる介護業界の事情も影響しているのでは。怒りや不満を抱えて働く人が多くなれば、それだけこうした歪(ゆが)みも表れやすくなります」

 犯罪心理学を専門とする大学教授が、介護という職業に着目してこう語った。

「今回のような犯罪は『死の天使』型といって、世界的に多くの事例がある。もともと看護業界に多かった。医師と違い患者の命を直接左右できない看護師には、自分が患者を救ったという『自己効力感』を見いだせず、鬱憤を募らせる人が出てくる。わざと患者の症状を悪化させ、回復させることにやりがいを感じたりし、エスカレートして殺害に及ぶケースもある」

 看護業界と似たような事情の介護業界でも同様の事件が起きる可能性が、以前から指摘されていたという。

「介護の現場では、相手が認知症の場合などは仕事への感謝の反応が得られないことも多く、より不満が高まりやすい。特に能力に自信があり、プライドが高い人ほど、こうした犯罪に走りやすい傾向がある。取得が難しい救急救命士の資格を持っていた今井容疑者の特徴は、よく当てはまる」(大学教授)

 急速に社会の高齢化が進む中、第二の「死の天使」を生み出さないためにも、この事件を徹底的に検証する必要があるのではないか。

週刊朝日 2016年3月4日号より抜粋