「技術流出? もうそんなことを言っている時代ではない。日本が世界から『技術立国』と言われ、資金がある時代ならばともかく……。いまや技術の種類によっては、中国や韓国、台湾メーカーに抜かされている」
台湾傘下入りには明言を避けるが、機構案には「もう何十年も勤めている。思い入れがある。うちは液晶の会社です。それをJDIと統合させるというのはどうなのか。(社内でも)中堅以上の社員にはそんな思いを持つ者が多い」。
50代男性社員も、
「技術流出といってもね、日本全体として、そんなに……、そんなに流出と騒ぐほどの技術があるのか。(中韓台メーカーに)追いつかれている。(2案について)社員の受け止めはいろいろあると思う。ただみんなシャープが好きだから入社してきていますから」
にわかに注目される技術流出論にはOBも違和感を持つ。シャープで太陽電池や液晶の研究開発に携わってきた立命館アジア太平洋大学の中田行彦教授は、
「鎖国時代の話ではない。ホンハイとは補完関係にある。世界から知識を集めてモノづくりをする『価値共創』はシャープが得意。世界に工場を持つホンハイは販売に強いが、ブランドは持たない。シャープは新たに開発した製品をホンハイの中国工場などで作り、シャープのブランドで売ればいい。今回は世界でどう戦うかを日本企業が考える分水嶺にもなる。世界とうまく連携しないといけない時代になったということ」
創業者とともに一時代を築いた元副社長の佐々木正氏(100)も本誌に対して「(ホンハイは)大株主として捉え、プラス面を考えることが肝要。マイナス思考だけでは駄目」とコメントを寄せてくれた。
一方で、これまでの経過に憤りの声もある。別の50代現役社員はこう嘆く。
「JDIはいわば国の会社。そこに追い詰められ、液晶事業が悪化している面がある。ただ正直、もうJDIと組もうが液晶はもたない。台湾だろうと機構だろうと出せばいい。事実、その流れでずっと来ていた。ところが、不正会計で東芝などがおかしくなりだし、いつの間にかシャープの液晶以外の事業がバラバラになる話にもなっていった。おかしい。シャープはマインドの会社ですから」
※週刊朝日 2016年2月26日号より抜粋