必死に自分の精神面をコントロールしようとしていたのが伝わってくる。そこで浮かぶのが彼の取組前のしぐさだ。塩を左手で鷲掴みにし、肘を曲げた両腕を後ろに引き、のけ反るように胸をそらしてから塩を高々とまく……ラグビー日本代表の五郎丸歩選手がW杯でやって有名になったメンタルトレーニングで言うところの“ルーティン”を、以前から取り入れていたのが琴奨菊だ。それだけメンタル面で苦労してきたということで、白鵬を破ったあとの言葉にもそれが表れていた。

「自分を信じていた。相手との戦いなんて、ほんの20秒か30秒。それ以外の時間は自分との闘い。そこで勝てるようにしてきた」

“ケガは稽古で治せ”が佐渡ケ嶽部屋の伝統だという。琴奨菊も左膝と右胸の大ケガをしても休まず稽古場で基本を繰り返してきた。師匠の息子で先代(元・琴桜)の孫である琴鎌谷(ことかまたに・18)は、そんな琴奨菊の背中を見て今年の正月、伝統を守っていくことを誓ったとか。

「琴奨菊にしても、その連勝を13日目に止めた豊ノ島にしてもですが、基本ができていて、30代になっても気持ちが折れないお相撲さんは、まだ成長しているし、活躍してますよね」(別の記者)

 心技体が充実してきたからこその快進撃だったのだ。

(本誌取材班=牧野めぐみ、上田耕司、亀井洋志、山内リカ、松岡かすみ/今西憲之、岸本貞司)

週刊朝日  2016年2月5日号