3時、バスは小諸ICから一般道へ。「凍結注意」「急カーブ・スリップ注意」といった看板が目立つようになる。2人の運転手のうち60代の先輩が、経験の浅そうな50代半ばの後輩に「路面ツルツルだから気を付けて」「室内灯つけて。上のボタン」と指導しながら進む。と思うと、先輩が「あ、間違えた」と道を引き返す場面もあった。

 亡くなった事故車の運転手2人のうち、ハンドルを握っていたとみられる土屋広運転手(65)は昨年12月に契約社員になったばかり。大型バスの運転に不慣れで、4回目の運転だったという。もう一人の勝原恵造運転手(57)との間で、同じようなやりとりが交わされていたのだろうか。

 翌朝6時過ぎ、赤信号で減速せず進もうとする後輩を、先輩が「ストップ! ストップ!」と慌てて制止。バスは停止線を大きく越えて止まった。休憩所ごとに交代してきたとはいえ、長時間の運転に、集中力が切れたのか。ヒヤッとしたが、乗客は皆寝ていて気づかなかった。

 6時半になるとようやく空が白み始め、6時50分、無事に斑尾高原ホテル着。辺りは一面の銀世界で、雪がちらついていた。

「会社からは、ああいう事故があったから、より気を付けて運転してほしいと言われました。だから慎重に運転しましたよ」

 と後輩運転手は言うが、格安ツアーがはらむ潜在的な危険を目の当たりにした約8時間の旅だった。

週刊朝日 2016年1月29日号より抜粋