昨年末に一年をふり返った作家の室井佑月氏は、空気を読まず真っすぐに立ち向かっていった山本太郎氏がいちばん頑張っていたという。

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 あけましておめでとうございます。といってもこの原稿を書いているのは12月の半ば。

 ニュースでは2015年を表す漢字がばんばん流れている。

 15年は『安』なんだとか。12月15日付の朝日新聞デジタルによると、

「『安』は応募12万9647通のうち最多の5632通(4.3%)。安倍政権のもとで安全保障関連法案の採否をめぐり国論を2分した点や、世界で続発したテロや異常気象、マンションの杭打ちデータ流用などで人々が不安になったことなどが理由に挙げられた」

 だとさ。

「『今年の漢字』は1995年に始まり、今年で21回目。阪神大震災があった同年は『震』。シドニー五輪の2000年、ロンドン五輪の12年はともに『金』。消費税率が8%にアップした昨年は『税』だった」

 ふーん。あの~、一言いっていいかな。今年の漢字を決めることに、どういう意味があるの?

 コメンテーターでワイドショーに出ていると、必ず「あなたが考える今年の漢字一文字」ってのを書かされるんだよ。

 それを見ている視聴者は、

(あの人にとってはその漢字なんだ)

 そう思って喜んだりするのかしら?

 
 応募が13万近くあるのも驚きだ。まさか、全国の小学校とかで考えさせられたりしていないよね。

 あたしは、今年はどういう年だったかふり返るのは、とても良いことだと思う。我々は忘れっぽいし。が、漢字一文字にする意味は? そんなことに長々時間を使うより、ニュースダイジェストを流したほうがよっぽどいい。

 が、今年の漢字は来年も再来年も、大々的に取り上げられるんだろう。報道側としては、誰にも怒られない&文句もいわれない気楽な話題だ。

 それがいけないと感じている人は少ないかもしれない。あたしだって、そのことに気づいたのは最近だ。

 考えてみて。今年の漢字一文字を長々と流すということは、別の話題やニュースを飛ばすってことだ。

 消費税の軽減税率で、「安倍さん、公明党、がんばった」みたいな報道がされ、国民がそのことについて「おかしくね?」と気づきはじめたとき、もうそれ以上の報道はされない。次の話題は漢字一文字。なんかマスコミ、ズルくね?

 ワイドショーに出ている身として、こういう発言は不味(まず)いかな。年のはじめには、今年こそ人から嫌われないようにと考えていたけど、ま、いいか。

 あたしの独断だけど、15年、いちばん頑張った人は生活の党と山本太郎となかまたちの山本太郎さんだと思う。空気を読んで少しでも得するぜ!みたいな世の中で、空気を読まない彼は素敵だ。大事なことは空気を読むことじゃない。ほんとうのことだもの。

 彼が格好良かったところはテレビではまったく流れない、けれど漢字一文字は流れるのにな。へーんなの!

週刊朝日  2016年1月15日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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