政府による介入など報道への問題が取り上げられる日本。そんななか、政府が表現の自由に関する国連の査察を延期要請したことについて作家の室井佑月氏は「先進国のすること?」と疑問を呈する。

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 こういうことしていいのかな。国際的に考えてどうよ。この国は世界の中の日本を意識し、動いているんじゃなかったのか。こういうことをしていたら、世界中にバラまいている金もチャラになってしまうんじゃ……。

 ええ、あたしはかなりびっくりしました。なんのことかって? 表現の自由に関する国連の査察を拒否したことよ!

 11月17日、国連で表現の自由を担当するデービッド・ケイ特別報告者(米国)が、12月1日から8日まで訪日し、特定秘密保護法や、自民党がテレビ局関係者を呼びつけた問題など、表現の自由をめぐる問題について、日本の政府関係者やメディア関係者、情報公開関連の市民運動家などと面談し調査する予定だったのに、突然キャンセルされたということをブログで告発した。

 まさか、そんなことしたの?と思っていたら、ほんとうだった。11月20日付の東京新聞の夕刊に、「予算編成理由に延期 表現の自由 国連調査、(岸田)外相認める」という記事が載っていた。

 新聞によると、日本政府側が予算編成を理由に、延期を要請したんだって。

 日本政府は、2016年の秋に訪問を延期することを示唆したという。

 
 つまり、16年の夏に行われる参議院選挙の前に、この国の表現の自由度について、海外からイチャモンをつけられるとマズいって理由じゃないのか。つまりつまり、それだけ国民の表現の自由を奪うヤバイことやっているって自覚はあるんだわさ。

「国連の特別報告者は、国連人権理事会のもとで、各地の人権問題を調べる専門家。調査対象国との合意の上で年に数カ国を訪問する」というが、「国連の調査が急に延期されるのは異例」とも書かれてあったぞ。

 新聞記事やニュースでは、「調査」「延期」という言葉が使われていたけど、ほんとうは「検査」「拒絶」という言葉が正しいんじゃないのかな。

 だって、たとえば飲酒運転や、学校の持ち物検査など違反者を取り締まる調査のとき、調査対象者が「その日はやめてくれ」っていえる? 岸田外相は「十分な態勢で迎えるため」と言い訳したみたいだが、そもそも十分な態勢で迎えなきゃならないなんておかしい。ルールを守るのが当たり前。悪いことしていないと胸を張っていえるなら、「調査?ええ、いつでもどうぞ」となぜいえない? 恥ずかしい態度だと思う。

 国境なき記者団の「報道の自由度ランキング」、現在、日本は過去最低の180カ国・地域中61位だ。さて、来年は何位になるだろう。

 あんまり報道されていないが、去年、国連人権理事会勧告で、福島の汚染地域に人びとを帰還させることを注意されている。避難指示区域の指定を解除すべきじゃないって。

 人権を大切に思わないって、先進国のすること? 後進していませんか。

週刊朝日 2015年12月18日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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