「もともと加齢によって弱い状態になっているところにさまざまな心理的、身体的要因が加わる。しかも、これらは65歳を過ぎたころから、わりと短い期間に立て続けに起こることが多い。それらの要因が重なって高齢者うつを発症することが考えられます」(同)

 一般的に、うつ病を疑うサインはいくつかある。「何事にも興味がわかない」「何をしても楽しいと思えない」「沈んだ気分になる」「疲れやすい」「意欲や集中力がない」「食欲がない」「眠れない」「人に会いたくない」「自分には価値がないと思う」といった意欲の低下やからだの変化だ。

 高齢者うつならではの大きな特徴として「うつ病性仮性認知症」と「仮面うつ病」の存在があると馬場医師は話す。

 うつ病性仮性認知症とは、うつ病の症状のひとつとして集中力や判断力が低下し、物忘れが激しくなったり、物事を決められなくなったりと、いわゆる認知症のような症状が起こることをいう。認知機能検査でも点数が下がるため、実際はうつ病なのに医師から認知症と診断されることもある。

「でも、これはうつ病の症状のひとつなので、うつ病の治療をしてうつ病が治れば、認知機能も改善します。これと反対のパターンもあり、認知症の初期症状として、意欲がなくなる、物事に興味がなくなるなど、うつ病と同様の症状が起こることがあります。さらにややこしいのが、うつ病と認知症を合併したり、うつ病が認知症に移行したりすることもあること。高齢者うつと認知症の見極めは医師でも難しく、本人や家族が見分けることは難しいでしょう。おかしいと思う症状がみられたら受診することをおすすめします」(同)

 また、仮面うつ病とは「からだの病気という仮面をかぶったうつ病」だと馬場医師は説明する。

「高齢者うつでは、頭痛、耳鳴り、めまい、動悸、胸が苦しい、胃が痛い、下痢、便秘など、からだの症状が前面に出て、心の病気としての症状が見えにくいことが多々あります。症状は多様で人によってさまざまです。内科や耳鼻科などを受診し、原因がわからず、いくつかの病院を回って最終的に精神科に来るというケースも多くあります。本人や家族も、からだに症状があることから、うつ病だとは思わないのです」(同)

 からだの症状が同じ時期にいくつも重なって起こる、症状のある場所が移動する、受診して検査をしても異常がないと言われた、頭痛や胃痛などの薬を飲んでも治らない。このような場合、高齢者うつを疑うひとつのポイントになる。

週刊朝日  2015年11月27日号より抜粋