「結局、利用料が高額で比較的環境がいいと思われていた有料老人ホームでも、誰でも採用せざるを得ない。現場は玉石混交。施設が立派ならサービスも良いと思い込むのは間違いです」(中村さん)
特に都市部での人手不足は顕著で、そのひずみは長時間労働や人間関係の悪化に表れているという。ストレスのはけ口に職場内のいじめが始まり、やがて利用者への虐待にエスカレートしていく。
中村さんによると、認知症の利用者に、職員が「死ね」と暴言を吐く光景は珍しくないという。理由は、「見るとイライラを制御できないから」。
食事介助で食事を口に突っ込んだり、着替えがすんなりできないと利用者をたたいたり。職員の言動は次第に激しさを増す。利用者もそれに暴行で“応戦”するようになり、状況は最悪に陥っていく。
「そんな劣悪な現場に嫌気が差して、まっとうな人が辞めていく。悪循環です」
中村さんは嘆息する。
「問題はどんな施設で起きても不思議ではない」
と話すのは、「介護・福祉系法律事務所おかげさま」の外岡(そとおか)潤弁護士だ。
「介護業界の人間にとっては、どこも同じ現場。業界内を循環するわけですから施設種別は関係ありません。なかでも行政が立ち入りにくい民間のホームは、無法地帯になりつつあるのです」
現場の職員の質以上に、管理側にも深刻な問題があると外岡弁護士は言う。
「現場を管理者が把握していないのです。いわゆる“ほうれんそう”(報告・連絡・相談)ができていないので、摘めるはずの問題の芽が放置されてしまっています」
※週刊朝日 2015年9月25日号より抜粋