「1部上場企業で働いてきた男性が、離婚してから食事や趣味にかけるお金を節約できず貧困になる人もいます」(同)
こんな例もある。藤田さんが警察で保護した60代の男性は、不動産会社社長で、バブル期は資産が2億円あった。だが土地が転売できず破綻。それでも社長っ気が抜けなかったらしい。
「6年前に彼がお弁当とお茶をスーパーで盗んで捕まったとき、所持金が100円なのに、スーツを着込んでいました」(同)
この元不動産会社社長は「食いっぱぐれるはずがない」「老後の心配無用」と年金も払っていなかったという。
80歳の老母と45歳の息子のこんな生活苦もある。福祉施設に勤める息子の給与は手取り23万円。亡き夫の会社が傾いたときに息子が借金を被り、返済が毎月数万円ある。築40年の賃貸マンションの家賃を息子が払い、母親が光熱費と食費を払う。母親は病院通いをしながら、息子の大学時代の奨学金も年金から返し続ける。
「奨学金は息子名義だが、何年か払えない時期があり、親の私に支払い通知が来た。額は多くはないが息子からも頼むと言われて、この先十何年は私が払わないと」
母は息子がいないと年金だけでは住めず、その息子が母に寄りかかる。
関西で生活困窮者の支援をする生田武志さんは、貧困から人が落ちていく様子を、「カフカの階段」として図式化した。
労働、家族、住居を失い、金銭を失い、ついには野宿という究極の貧困状態に。生田さんによれば、落ちるときは一段、一段落ちるが、最下段まで落ちると、簡単には上に上がれない。住所がないとハローワークで職も得にくく、生活保護を受けるのに時間がかかることも。
「生活保護の申請をしなかったり、申請しても追い返されて野宿になる高齢の方にもたびたび出会います」(生田さん)
※週刊朝日 2015年7月3日号より抜粋