ドラマ評論家の成馬零一氏は、現在放送中の上戸彩主演ドラマについて解説する。

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 夏は心も身体も開放的になるといいますが、夏のドラマもまた、欲望を刺激する色っぽい作品が目立ちます。

 中でも見ているだけで人肌恋しくなってくるのが、フジテレビ系木曜夜10時に放送中の『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』。本作は上戸彩にとって初の不倫モノです。

 脚本は高い構成力とハードな物語に定評のある井上由美子、チーフ演出は『ガリレオ』の劇場映画『容疑者Xの献身』や『真夏の方程式』の監督として高い評価を受けた西谷弘。硬質なドラマを追求してきた2人が組んだこともあり、骨太な大人のドラマに仕上がっています。

 物語は主婦の笹本紗和(上戸彩)がベランダから火事で燃えている一軒家を見下ろす場面からはじまります。猛々しいサイレン音を鳴らしながら駆け抜けていく消防車のカットの後、紗和が舐めていたアイスバーが溶けてボタッと足に落ちます。

 一見なんてことのないカットですが、今後の物語を暗示するシーンです。翌日、紗和は同じ主婦の滝川利佳子(吉瀬美智子)と出会います。上戸彩のイメージがそのまま投影されたような、明るく清純でしっかり者の紗和と、退屈を紛らすように出会い系サイトで次から次に男と不倫する利佳子。2人の女性を中心にドラマは回っていきます……。 

 
 主婦の不倫を扱ったドラマと言えば、1980年代に放送された『金曜日の妻たちへ』が思い出されますが、本作はその2014年版とでも言うような作品です。単純なメロドラマに終わらない空気感が作中には存在します。それは、ストレートに台詞で表現されるものというよりは、想像力を刺激する描写が多く、例えば序盤の火事の場面や、紗和が口紅を塗る場面などに表れています。

 また、ほとんどの登場人物が結婚しているため、恋愛における人間関係が複雑に入り組んでいるのも大きな見どころです。

 2人の女性の不倫相手となる、高校教師の北野裕一郎(斎藤工)、利佳子の夫・滝川徹(木下ほうか)が編集長を務める女性誌で挿絵を描いている画家の加藤修(北村一輝)の他にも、紗和とセックスレスの夫・笹本俊介(鈴木浩介)、姑の笹本慶子(高畑淳子)をめぐる嫁姑関係のドラマや、利佳子から捨てられた元不倫相手で今も執着する青年、北野の浮気現場を押さえようとする生徒たちなど、どこで物語が発火するかわからない緊張感があります。

 しかし、『きらきらひかる』や『SCANDAL』で女同士の絆を描いてきた井上由美子の作風を考えると、単なる男女のメロドラマで終わるとは、とても思えません。

 第2話で「友達が嫌なら、共犯者になりましょう」と利佳子は紗和に言うのですが、おそらく今後は2人の関係に焦点を当てた“バディもの”(対照的なキャラの2人が問題などに立ち向かう内容)となっていくのではないかと思います。

 不穏なエロスが漂う本作ですが、その官能性の根底にあるのは、主婦としての退屈な日常を壊してしまいたいという利佳子の破滅願望です。吉瀬美智子が体現するエロティックな背徳感と、上戸彩が体現する健全な明るさは正反対のものですが、それだけに今後、不倫を通して、紗和が利佳子と共に堕ちていくのか、それとも利佳子を救い上げるのか、昼顔妻たちの今後が気になるところです。

週刊朝日  2014年8月29日号