性別適合手術を受けて、女性の体をもったタレントのはるな愛さん。戸籍は男性のままだという。その心境をこう語る。

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 子どものころから、生まれ持った「男」という性別に違和感を持っていました。

 小学校入学でランドセルを買ってもらったときに、私は黒なんだ……とショックを受けました。普通の人には、ただの「教科書を入れるカバン」かもしれないけれど、「男」という看板を毎日背負っていると感じるくらい、重かった。現実的に、自分は男だということを理解し始めたとき、「じゃあどうやったら自分らしく生きていけるんだろう」ということを模索し始めたんです。それが私にとっては女性らしさを求めることでした。でも、男であって女になることに、当時は「気持ち悪い」と言われたり、際物扱いされたり。生きることがすごくつらかったですね。家族や近所の目も気になりました。学校に学ランを着ていったり、したくもないのに男らしく振る舞ったりというのは、親のためだった。でも、私が60歳くらいで第二の人生を始めるにあたり、もっと早くに始めておけばよかったと、後悔しちゃうと思ったんですよね。

 女性になると決めてからは、腹を据えました。最初は思うようにいかず悩んだこともあったけど、でも生きていかないといけなくて。諦めず、家族にも絶対わかってもらえると信じて突き進みました。親は親で、苦しんだと思う。こんなふうに産んでしまったことを後悔している時期もあったようです。今のようにテレビに出していただいて、頑張っている姿を見て、ようやく安心してくれたと思います。本当の意味で理解してくれたのは、つい最近のことです。

 
 おかげさまで、世間の認知は得られてきましたが、やっぱり、いまだに変わってみられますし、ロケをしているときに「気持ちわるい、ここを歩くな」とか言われることがあります。それは、なんだか残念だなーって思う。人に厳しく言われる分、絶対そういう人間にならないでおこうという気持ちになります。一方で、応援してるよと言ってくださるような器の大きい人は、すてきだなと思います。

 私は実は、戸籍は変えていない。大西賢示のままです。法律上問題があるということではなく、自ら選んでいます。これまでの人生を背負っていたいという意味で。不思議なことに、正直、あれだけ女の子になりたかったのに、女の子の体を手に入れてから、恋愛とか人間関係とか、悩みの原因ってこれじゃないんだなと気づいたんです。また、昔は男でなくちゃ、女でなくちゃというのがあったと思うけれど、今はいろんな性のグラデーションが受容されているので、男とか女とか決めきることがすべてじゃないかなと思っています。実は、仕事で男性の格好をしたときに「あ、この生き方ありだな」と思ったこともあるんです。だから戸籍はこのままでいたいかな。

 ただ、戸籍を変えていないことで問題もある。電気の支払いのときは、いつも本人確認を求められる。「奥さまですか?」と言われるときもある。パスポートに男と書いてあるので、海外のカップルプランが使えないときもあります。

 自分らしく生きるというのは、それなりに責任を負うことでもあると思います。子どもがいるならなおさら。周りの人に感謝して生きていかなければいけないなと思います。とはいえ、諦めたり、悔いが残ったりするような生き方はしてほしくない。スタートを切るのは、今からでも遅くない。私も自由な発想で、男とか女にこだわらず、オンリーワンの存在で、後悔しない人生を送りたいなと思っています。

週刊朝日  2014年7月18日号