日本に初めて麻婆豆腐や担々麺を紹介し、「中華の神様」と呼ばれた父・陳建民。その後を継いだ陳建一が、父の思い出を振り返った。 

*  *  *
 僕はもともと「ぐわっ」っていくタイプじゃないの。小さいときから「ホニャア~」ってタイプ。やっぱり親がよかったんだよね。ハングリー精神じゃなくて「ほにゃらか~」に育てられたから。父も母もすごく苦労してここまできたと思うんだけど、子どもには一切そういう姿を見せなかった。父に怒られた記憶はない。悪ガキだったから、母には毎日たたかれてばっかりだったけどさ(笑)。

 陽気な親父でしたよ。お茶目で、家ではへんてこりんな日本語で冗談ばかり言っていた。家の中はいつも明るくて賑やかだった。

(父が来日した)当時は日本と中国、国交がなかったから、調味料も何もなかった。だから父は凄いんですよ。苦労して工夫して、ケチャップを入れたエビチリを作った。そんなの四川省にないよ。麻婆豆腐も山椒が入ってないから食べやすくておいしいでしょ。そこから「丸美屋」や「クックドゥ」(味の素)の麻婆豆腐の素ができた。全部、親父が日本人の味覚に合わせて工夫したの。

※週刊朝日2012年2月24日号


週刊朝日