FMWの入場シーン。カリスマ的な人気の大仁田厚(1992年撮影)(C)朝日新聞社
FMWの入場シーン。カリスマ的な人気の大仁田厚(1992年撮影)(C)朝日新聞社

 選手入場は、プロレスにおけるクライマックスシーンの1つだ。

 各自の曲にあわせ、入場中の数分間で各々が個性あふれる空間を創造してくれる。「相手との戦いとともに観客との戦いもある」と言われるプロレスにおいて、選手入場は大きな意味を持つ。かつて1時間放送枠だった地上波でのプロレス放送が30分枠に短縮された時、多くの試合映像ととも選手入場はカットされた。これに異を唱えたプロレスファンが多かったのは、ある意味当然だった。

 選手入場が名シーンになるにはいくつかの要素がある。選手自身、そして曲もそうだが、空間=箱が関係し『導線(=入場経路)』の距離も影響を及ぼす。

 後楽園ホールのような小規模会場では、レスラーはすぐにリングへ到達する。入場曲のAメロ部分などでリングインしてしまい、曲が終了してしまうことも多い。よって曲頭からサビがかかるような選曲をするレスラーも多い。

 例えばスタン・ハンセン(新日本、全日本他)の使用していた「サンライズ」は、バラエティ番組でも度々使われる名曲だ。しかし前奏のメローな部分で早々リングインというシーンもあり、「もっと聴きたい」という欲求不満が残ることもあった。

 最近はリング下を徘徊したりして曲を引っ張り、場内を『温める』選手も増えた。棚橋弘至(新日本)は入場時、リングサイドのファンとハイタッチなど、ひときわ長く『尺(シャク』を使う。大仁田厚(FMW他)が、ひたすらペットボトルの水を撒き散らすのも有名だ。

 逆に東京ドームなどの大箱ではかなり長い『花道』が設置されることが多い。「入場が間延びする」という声も聞くが、ここはファッションショーなどで言うところの『ランウェイ』、選手の魅せ場である。

 長く入場曲を聴けるようになっただけでなく、「存在価値を見せつけよう」と花道上で荒唐無稽なことをするレスラーもいる。特に東京ドームでは様々なことが起こった。大仁田は禁煙のドーム内でタバコをふかした(99年4月10日、vs蝶野正洋)。中牧昭二(IWAジャパン、大日本他)の有刺鉄線ボード背負い(97年1月4日、vs蝶野正洋)などいろいろと記憶に残るものもある。

次のページ
過去にはあった“ありえない光景”