東がこのスタイルでお店を始めたのは、素朴な疑問からだった。

「ミュージシャンを目指して福岡から上京し、花市場でのアルバイトをするうちに仕事を任されるようになり、麻布十番のスーパーの花屋を切り盛りしていました。花の仕入れをする中で、次第に業界のシステムに疑問を抱くようになったんです」

 市場で仕入れた在庫から花を売っていくと、当然大量に余ることも出てくる。しかも花は「1日で10歳年を取る」と言われる。古いものから売る、または破棄せざるを得なくなることもある。生命である花をただの“モノ”として扱うことに違和感を抱いた。

「誰かのためだけの花を作りたい」という思いから、東が銀座に店を構えたのが今から16年前。以来ずっと、「花のない花屋」というスタイルを貫いてきた。

 現在のアトリエは東京の南青山にある。メタリックな素材で統一された空間は花屋というより、実験室のよう。室温は常に15度、湿度は65%程度。人間よりも植物にとっていい環境を優先させている。

 東の活躍の場は“花屋”としての仕事にとどまらず、広告、商業施設の装飾、海外大手メゾンとのコラボレーションなど多岐に渡るが、さらに独自のアートプロジェクトとして常に新しいことにも挑戦している。

 2014年にはアメリカのネバダ州から植物の作品を成層圏に打ち上げ、2015年にはフィリピン沖の海上に巨大な花を生け、2016年にはアメリカの砂漠地帯に巨大なヤシの木を吊ったインスタレーション・ライブをした。今年4月には米・ウォールストリートジャーナルで「世界に影響を与えるフローリスト、トップ3」として記事に掲載された。文字通り世界を股にかけ、誰も想像つかなかった“植物の姿”を造り出す。

 最近始動した新しいプロジェクトは、“フラワーショップ希望”だ。「希望という花束を世界中の人に配りたい」と東はその意図を説明する。

「これまでにアフリカのコンゴや、ドイツのルール工業地帯、アルジェリアのカスバなどに行き、実験的に花を束ねて現地の人々に渡してきました。花って途上国や紛争地域ではやはり高級品でなかなか手に入らないもの。花束をあげると人々は本当によろこびます。花は人を幸せにするし、希望そのものなんだと実感しました」

 花を贈って人を幸せにする。それが昔も今も東の仕事の原点なのだ。

 お金をもらって花を作らせてもらい、ありがとうと感謝される。花に感動し、涙を流してくれる人もいる。「こんなすてきな仕事ありません」と東は言う。

 1日に作れるアレンジは最大20束程度。単純計算で、これまでに10万本以上の“花束”を世に送り出してきた。その一つとして同じ花束はない。人の想いを花に束ねたい……その東の想いは揺るがない。(取材・文/宇佐美里圭)