では、蜃気楼はどんなふうに見えるのか? 出現時とそうでない写真を比較すると分かりやすい。魚津市内から富山県西部の射水市にある日本海側最大の2層構造の斜張橋「新湊大橋」を撮影した写真は、逆転した像が実際の橋の上に重なり、とてつもなく大きな建造物に見える。このほか、建物が上下に伸びて見えたり、輪郭がにじんでいたり……。写真展では乱歩が描いた通り、怪しくも美しい雰囲気が漂う光景が並んでいる。

 石沢会長によると、蜃気楼は見え方によって五つのランクに分けられるそうだ。魚津埋没林博物館では蜃気楼の発生と同時に、ホームページ上で情報を発信、どのランクかなどの記録を残している。

A:肉眼ではっきり識別でき、長時間にわたり複数の方向に現れる

B:肉眼で識別できるが、短時間・一方向のみ・やや不鮮明など、Aに比べて何らかの要素が欠ける

C:予備知識がない人や、双眼鏡がなければ半数程度しか分からない

D:予備知識がない人や、双眼鏡がなければ大半が分からない

E:双眼鏡があっても識別に経験を要する

「海岸へ行ってみましょう」と石沢会長に促され、「海の駅 蜃気楼」という名産品を集めた建物の横にある蜃気楼展望スポットへ向かった。時間は午前11時半。すでに何人かの“蜃気楼のエキスパート”が双眼鏡を手に観察していた。

 しばらくすると「出てきたぞ!」という声が挙がった。石沢会長が慌てて車から望遠レンズとカメラ、三脚を取り出し、セッティングする。肉眼では全く見えないが、双眼鏡を借りてのぞくと、富山市内の沿岸地にある工場の輪郭がゆらゆらとしているのが確認できた。展望地近くの事務所に行って「見えました」と自己申告すると、魚津市観光協会から「証明書」がもらえる。

 風の影響を受けて蜃気楼は常に変化し、3分もたたないうちに消えてなくなった。石沢会長によると、「今日の蜃気楼はCランク」とのこと。今年19度目の出現となった。最も直近でAランクが出たのは2006年7月10日であり、Bランクも年に1度あるかどうか。今年はまだB以上の蜃気楼が出現していない。

「“1度は見てみたい”と思った方が足を運び続け、見た後でも“もっと上のランクを見たい”と欲望をかき立てられるのが蜃気楼。お金のかからない楽しみなので、ずっと続けられます」(石沢会長)

 おっしゃる通り。「次回は必ず双眼鏡を持参しよう」などと思わせられてしまう。すっかり、蜃気楼の魔力にはまってしまったようだ。(ライター・若林朋子)