「脚をよじ登ったり、すり寄って甘えたりする姿にみんなすっかりメロメロ。私は“犬派”でしたが、かわいくて、かわいくて……」

 「事務所で飼おう」と社員の意見は一致した。「三毛だから“みーちゃん”」と名前はすぐに決定。乗船は2014年5月ごろからである。木村さんが試しに乗せてみたところ、最初からまったく嫌がらなかった。「和歌山電鉄貴志川線貴志駅の“たま駅長”のように人気が出ればいいなあ」という社員の期待を背負い、“副船長”は誕生したのである。

 ちなみに、みーちゃんは正社員とのこと。給与は餌の“カリカリ”。時々、煮干しやかまぼこなどの“ボーナス”も出る。普段は事務所におり、午前8時半に社員が出勤してくると、お出迎えするのが朝一番の仕事である。水曜日が公休で、女性社員と一緒に帰宅し、チワワ犬のティーちゃんと昼寝をしたり、遊んだりして過ごす。

 また、波が高いと、乗船しない。なぜなら船酔いするからだ。そうとは知らず初めて乗せた時、みーちゃんはふらふらになり、声高らかに鳴いてから嘔吐してしまった。木村さんは「ストレスがかからない天候の時を選んで乗せています」とのこと。上司は、職場のストレス改善に理解がある。

 それもそのはず。副船長の集客効果は絶大で、「みーちゃんと船に乗りたい!」と多くの女性客や家族連れが訪れるようになった。昨年は、北陸新幹線の開業効果と相まって、乗船者数が3~4割増え、過去最多を更新した。みーちゃんは重要な戦力であり、体調を崩してしまっては、営業成績に響くのである。

 新湊観光船は毎日、午前9時から午後4時まで随時運航している。みーちゃんが乗船するのは、内川遊覧コース(約50分、1500円)か新港遊覧コース(約30分、1000円)であり、どの船に乗るかは、その日の波の高さとご機嫌次第らしい。

 海王丸パークから富山湾から眺める立山連峰は絶景だったが、みーちゃんと遊んでいたらあっという間に時間が過ぎてしまった。「みーちゃんと会いたい」「また乗りたい」と思わずにはいられない。なるほど、こうやってリピーターを獲得していくわけか……。ねこ副船長、なかなか“できる社員”である。
(ライター・若林朋子【元 北國・富山新聞記者】)