また、「日本海や富山湾がダイオウイカの繁殖地になったから数が増えた」という仮説も成り立つが、「今のところ、それは考えにくい」とのこと。なぜなら、卵や稚イカが発見されていないからだ。もっとも、02年ごろ大量発生して大騒ぎになったエチゼンクラゲは、近年全く富山湾に姿を見せていない。ダイオウイカも謎を残したまま、突然現れなくなる可能性があるのだ。

 学術的な見解は、ここまでにして、巨大なダイオウイカの目撃者に話を聞いてみた。魚津水族館飼育研究係学芸員の伊串祐紀さんは昨年12月24日、至近距離でダイオウイカが泳ぐ姿を動画で撮影することに成功している。同日朝、水橋フィッシャリーナ内にいるとの目撃情報を得て海に潜り、一緒に泳ぎながら約8分間の映像をカメラに収めた。遭遇した時の印象は衝撃的だったそうだ。

「とにかくでかい! これまで見たものは打ち上げられた後なので体表面が傷ついて白っぽかったけれど、クリスマスイブに出会ったダイオウイカは、キラキラした赤茶色でした。触ると、ぷにぷにした感じ。近づくと怒ったのか、大きな丸い目でギロッとにらんできました。そばに寄ると腕を絡められ、さすがに怖かったです。最後は黒いすみを吐いて、悠々と泳ぎ去りました」(伊串さん)

 伊串さんの手には、腕を絡められた時に付いた吸盤の跡がしばらく残っていたらしい。映像を見ながらダイオウイカとのクリスマスイブ・デートを思い出し、いまだに興奮冷めやらぬ……といった様子である。

 魚津水族館には1月16日、新たにダイオウイカの実寸大模型が登場した。クリスマスイブに出会った時のように、表面はキラキラした赤茶色で、大きな目。長い触腕を伸ばしている。模型の横にはモニターが設置され、伊串さんが撮影した動画も見ることができる。悠々と泳ぐダイオウイカを、ぜひご覧あれ。

(ライター・若林朋子)