同書では、コールセンター業界全体の課題として、オペレーターの労働環境を改善することが求められると訴えると同時に、私たち顧客側にも、過剰なサービスを要求する姿勢を一考すべきではないか?と提議している。

 そもそも、日本におけるコールセンター業務の発展に大きな役割を果たしたのが、地方の自治体による誘致だ。

 仮に、雇用創出のために大規模工場を作るとなると、広大な平地が必要だが、コールセンターは建物と通信設備さえ用意できれば、どこでも開設可能。地方であれば、都会と比べて土地代・人件費などのコストも削減できる。そこに注目して、本社は東京の企業が、コールセンターを北海道や東北、九州や沖縄などの地方に置く場合も多く、“本土”なら1200円の時給が、沖縄なら900円。

 近年、とくに誘致に力を入れたのが沖縄県で、「企業向けの見学ツアー」を定期的に実施するなど、積極的な誘致の結果、2014年1月の時点で、沖縄県内に進出したコールセンターは80社にも上る。

 地域に雇用を生み出す、と言えば聞こえは良いが、管理職は“本土”から派遣され、非正規雇用のオペレーターは現地採用。同書でも、「自治体が人材教育まできちんと担うつもりがあるのなら、誘致も双方にとってメリットがあるが、そうでなければ、企業側が安い人材を使い減らすだけになってしまい、地域が伸びることにはつながらない」(同書より)と問題点を指摘する声を紹介している。

 とはいえ、労働者側から見て、コールセンターで働くことに全くメリットがないわけではない。ストレスが多い環境ではあるが、いわゆる“ブラック”企業のような違法企業ばかりではなく、他の業種より高い時給で、労働時間を自由に選ぶことができるなど、有利な一面もあるという。

 オペレーターから経営者まで、コールセンター業界のあらゆる声を丹念に拾った同書は、電話の向こう側からかいま見える現代社会の問題を鋭くえぐった読み応えあるルポルタージュとなっている。