「もっと寒くなるそうだ。外に数分といられないぞ。地球温暖化はどうなってる?」

 天気と気候の混同。欧米では「地球温暖化はでっち上げだ」などと、科学を否定する集団が一定の勢力を持つ。米国は、温暖化対策の国際ルール・パリ協定からの離脱を表明している。

 日本でもこんな発言が相次ぐ。

「16歳の考えに世界が振り回されたらダメだ」(橋下徹・元大阪市長)。「洗脳された子供」(作家の百田尚樹氏)。「お嬢ちゃまがやってることが間違ってる」(作家の竹田恒泰氏)

 ネット上で「小娘」「お姉ちゃん」と見下した表現や「彼氏紹介してやれ」といった侮辱がなされ、多くの「いいね」を集める。そんな日本の状況について、東京大学名誉教授の上野千鶴子さんはこう話す。

「女性、子どもの声を『無力化』『無効化』する対抗メッセージはいつでも登場します。それをやればやるほど、そういうことをやる人の権力性と品性のなさが暴露されるだけです」

 上野さんは4月の東大入学式の祝辞で、痛烈な性差別批判をした。祝辞では「しょせん女の子だから」と足を引っ張ることは「意欲の冷却効果」と説明し、ノーベル平和賞を受けたマララ・ユスフザイさんの父が「娘の翼を折らないようにしてきた」との発言を紹介した。

「同じメッセージを権威のある男性が言えば、聞かれるでしょうか? 繰り返されてきたメッセージに『またか』の反応があるだけでしょう。グレタさんのスピーチは、世界の要人が集まっても、いつまでたっても、何の進展もない現状に対するまともな怒りをぶつけたものです」

 上野さんはこうも指摘する。

「環境問題は『未来世代との連帯』と言われてきました、が、その『未来世代』は死者と同じく見えない、声のない人びとでした。その『未来世代』が当事者として人格を伴って登場したことに、世界は衝撃を受けたのでしょう」

(ライター・溝呂木佐季)

AERA 2019年10月14日号より抜粋