日本政府が神経をとがらすのは理解できます。東南アジアで同様のことが起きた場合、また将来中国が民主化されて個人請求権が浮上してきた場合、深刻な事態になるからです。そうした懸念を払拭するためにも、消極的な拒否の姿勢だけでなく、事態を早めに打開する積極的な知恵をしぼる必要があります。具体的には、徴用工への損害賠償を担う財団をつくるというのも一つの案だと思っています。

 また、日本は日韓基本条約と請求権協定に準じ、北朝鮮とも国交正常化したいはずです。ところが今回のような韓国側の決定があると、これを北朝鮮が盾に取る可能性があります。日朝平壌宣言が履行されなければ拉致問題解決も進まず、日朝首脳会談も遠のくおそれがあります。元徴用工問題は、日韓だけの問題ではないのです。

※AERA 2018年11月19日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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