16年にヘイトスピーチ対策法が施行された。しかし現在も、ネットやSNS上にはヘイトの病巣が。ネットでヘイトにさらされ、深刻な被害を訴える人もいる。
満開の桜の下、住宅街の公園は人々の笑顔に包まれていた。
4月1日の日曜日。川崎市川崎区の桜本地区にある桜川公園で「春の祭」が催された。タイ、フィリピン、ベトナム……さまざまなルーツの菓子や料理が供される屋台も並ぶ。23回目を迎える祭りは、近隣住民らが「誰にとっても住みやすい街づくり、ふるさとづくり」のために結成した「街づくり協議会」が主催する手作りイベントだ。
和やかな宴に浸ると、この地域がヘイトデモの標的にさらされてきたとは想像もつかない。川崎市では2013年以降、14回のデモが繰り返され、15年以降は在日コリアン集住地域の桜本地区にデモ隊が侵入。「ゴキブリ朝鮮人は出て行け」「じわじわと真綿で首絞めてやる」などとヘイトスピーチを浴びせた。
祭りと同じ日。同市人権施策推進協議会の「第1回ヘイトスピーチに関する部会」が開かれた。公的施設でのヘイトスピーチを事前規制する全国初のガイドラインの運用開始に伴い、市の判断の妥当性を審議する有識者部会がこの日、設置されたのだ。部会は、市の担当職員がネット上で市民のヘイト被害を把握して削除要請する際も、妥当性を審議する役割を担う。
会場の傍聴席には、熱心にメモをとる川崎区在住の在日コリアン3世、崔江以子(チェカンイヂャ)さん(44)の姿があった。
「公的施設でのヘイトスピーチに加え、野放し状態のネット被害も具体策が講じられるのはとても心強いことです」
会議終了後、崔さんはこう心情を吐露した。日本籍のない崔さんには参政権はないが、ヘイトスピーチに関する議会や委員会はほぼすべて傍聴している。
「私にできる民主主義の参画の権利はしっかり行使したい」(崔さん)との思いからだ。
16年6月のヘイトスピーチ対策法施行後、卑劣なデモに一定の歯止めはかかった。しかし、ヘイトの病巣は今なおネットやSNS上で深刻な被害をまき散らしている。ヘイト解消を求める運動の最前線に立ち、実名と顔を出してマスコミの取材にも応じてきた崔さんは、ネット上で深刻な被害にさらされてきた。