男子シングルス決勝でバックハンドを放つ張本。世界最強の中国トップ選手に引けを取らないレベルに成長した (c)朝日新聞社
男子シングルス決勝でバックハンドを放つ張本。世界最強の中国トップ選手に引けを取らないレベルに成長した (c)朝日新聞社
決勝で張本に敗れた水谷。10度目の全日本制覇はかなわなかった (c)朝日新聞社
決勝で張本に敗れた水谷。10度目の全日本制覇はかなわなかった (c)朝日新聞社

 卓球ニッポンに初の中学生王者が誕生した。14歳の張本智和だ。絶対エース・水谷隼(28)に完勝しての戴冠。敗れた水谷も、このまま黙ってはいない。

【決勝で敗れ10度目の全日本制覇はかなわなかった水谷選手】

 21日、東京体育館で行われた全日本選手権の男子決勝。ゲームカウント3-2で迎えた第6ゲーム10-5のマッチポイントで、張本のフォアハンドの強打が水谷の懐をえぐった。新王者が誕生した瞬間だ。代名詞の「チョレイ!」の叫び声はない。真っ先に、ベンチにいた父の宇(ゆ)さんの元に駆け出し、抱き合った。

「今まで卓球をやってきた中で、最高の瞬間です」

 場内インタビューで笑顔を見せた。

 前人未到の10度目の全日本制覇を狙った水谷は、昨年6月の世界選手権に続く連敗だった。試合後の記者会見で苦笑いを浮かべて言った。

「ものすごい成長スピード。世界選手権よりも数倍強い。張本が来る前に、自分がたくさん優勝しておいて良かったなと思った」

 特にバックハンドは、世界最強の中国トップ選手に引けを取らないレベルに進化していた。

 水谷と張本。二人は日本の卓球関係者が「五輪で金メダルが取れる天才」と口をそろえる。水谷は中学2年からドイツで武者修行し、高校2年で全日本を当時最年少で制覇。2016年のリオデジャネイロ五輪では個人銅、団体銀の各メダルをもたらした。張本は故郷の仙台で2歳からラケットを握り、中国の元選手だった両親の手ほどきを受けて育った。14年に日本国籍を取得。中学入学と同時に、メダリストの卵を育てる東京の「エリートアカデミー」で寮生活を始め、英才教育を受ける。

 水谷は「自分の子ども時代より実力がある」と、14歳年下の張本の才能を見込んでいた。テレビ番組の企画で、当時小学生の張本に直接指導したこともある。張本は「水谷さんから直接『サーブの種類を増やしたほうがいい』と言われて、とても勉強になった」と振り返る。反時計回りの鋭い横回転をかける「逆回転サーブ」を直接教わった。「最初はラケットにほとんど当たらなかった」と振り返るが、夢中で練習を繰り返した。いま、張本は朝早く練習場に来て掃除をし、サーブ練習を繰り返すのが日課だ。

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