●80年代と現在は違う

 今月の日米首脳会談で、トランプ大統領は対日貿易、為替批判を表面上封印。今後は麻生太郎副総理、ペンス副大統領が包括的な「経済対話」を進める。日本はどう対応すべきか。

 80年代の対米貿易交渉に臨んだ元外務事務次官の薮中三十二氏はこう強調する。

「80年代と現在の日米の経済構造の違いを、冷静に見据えなければいけません」

 最大の変化は、日本企業の現地生産が進んだことだ。日本自動車工業会によると、日本の自動車メーカーがもたらす雇用は全米で約150万人に上る。

 さらに決定的な違いは米国の最大のターゲットは日本ではないことだ。米商務省発表の2016年の貿易統計(通関ベース)によると、モノの貿易での対日赤字は全体の9%。47%を占める中国とは大きな開きがある。

「これから本格的な米中貿易交渉が始まります。その前に矢面に立って、あたかも日本が一番の問題国のような振る舞いをするのは賢明ではありません」

 薮中氏が留意するのは、トランプ大統領が早々に離脱表明した環太平洋経済連携協定(TPP)の政治的側面だ。TPPには、日米が中心になってアジア太平洋地域の自由貿易圏を確立し、台頭する中国に先んじてルールを決める体制固めの狙いがあった。

 TPPが事実上崩壊した今、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)締結に向け、日本がリーダーシップをとるべきだ、と薮中氏は唱える。RCEPは、日中が東南アジア諸国連合(ASEAN)に共同提案した経緯がある。

「日本はTPPで議論した内容も盛り込み、より先進的なルールを提案できます」(薮中氏)

●雇用イニシアチブは愚

 一方、保護主義を擁護する識者もいる。

 評論家の中野剛志氏は著書『世界を戦争に導くグローバリズム』(14年、集英社新書)で、「自由市場という制度は、経済が縮小する中では、緊張と摩擦を生み出す」と主張する。確かに、イギリスのEU離脱の流れもしかり、とうなずかせる。

 さらに中野氏は「1920年代末以降の保護主義の台頭が、世界経済を崩壊させ、第2次世界大戦の経済的な原因となったという通説」についても、「疑わしい」と唱える。理由はこうだ。

「世界経済の崩壊の原因は、保護貿易よりもむしろ世界恐慌の勃発にある。だが、その世界恐慌の原因となったバブルとその崩壊(いわゆる「暗黒の木曜日」)は、保護主義ではなく、むしろ資本移動の自由がもたらした」

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