「世界的に見れば500ルクスほどで設計・運用している国が多い。照明を絞れば、その消費電力も減りますが、発熱も減る。空調で冷やす量も減り、ぐっと省エネになるんです」

 あるオフィスでの実測事例だが、750ルクスから500ルクスに照度を落としたところ、1平米あたり4.2ワット消費電力は減った。300ルクスに落とした場合は6.3ワットだ。一方で空調は26度から27度にしても0・7ワットしか変わらなかった。

 さらに調査によれば、照明を300ルクスまで落としても不満に思う人の割合は少ないが、温度を27度以上にすると不快さを感じる人は圧倒的に多くなる。

「28度反対」には、他にも理由がある。

●メーカー設計値は26度

 一部の最新の空調システムを除き、メーカーが空調を設計するときに、そもそも28度を基準には設計していないのだ。

 空調を製造するときには、「設計値」というものがある。内部のコイルの大きさや冷凍機のサイズ、吹き出しの風速などを決めるときには、その値を基準にしてシステムがもっとも効率的に働くように設計される。

 田辺教授によれば、日本の空調システムの多くは、26度が設計値だという。近代空調の発明者であるアメリカ人のウィリス・キャリアが、1940年に出版した『Modern Air Conditioning, Heating and Ventilating』という本がもとになっている。この本にある「外の気温が32度のときには室内温度は26度が望ましい」という記述を受けて、日本に空調が導入された50年代から現在までずっと、26度で設計されているのだ。

 設計値が26度であるのにもかかわらず、ターゲットを28度にずらして運用すれば、必然的に不具合が生じることが多くなる。

 たとえば湿度の問題だ。最新型のものではない一般的な空調では、湿度だけ下げるということは難しい。簡単にいうと、冷やして結露を発生させることで、除湿をする仕組みだからだ。

「28度に設定すると、冷たい空気を送る必要がなくなるため、結露しなくなる。だから除湿できなくて、もわっとしちゃうんです」(田辺教授)

 機械の側でも、人間の側でも、生産性が落ちてしまう28度。世界を見渡せば、オフィスの室温はさらに低い。アメリカは23度、オーストラリアは23.3度、シンガポールは22.9度といった具合だ。温暖化が地球規模の問題である以上、日本だけどんなに頑張っても対策には限度がある。28度という数字にとらわれることなく、賢く省エネすることを、声を大にして訴えたい。(編集部・高橋有紀)

AERA 2016年8月1日号