事故から5年を迎えた福島第一原発の1、2号機(写真中央)。東京電力社内では1990年代以降、新型炉へのリプレースが検討されていた/2016年3月、朝日新聞社ヘリから (c)朝日新聞社
事故から5年を迎えた福島第一原発の1、2号機(写真中央)。東京電力社内では1990年代以降、新型炉へのリプレースが検討されていた/2016年3月、朝日新聞社ヘリから (c)朝日新聞社
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 老朽原発を廃炉にし、安全性と経済性を高めた新型炉に置き換える――。構想が実現していれば、東京電力福島第一原発の過酷事故は防げたのか。

「福島第一原発(イチエフ)の1号機には幻のリプレース計画が存在していた。もし実現していたら、あの事故は絶対に防げたはずです」

 東京電力の元管理職がそんな話を私に打ち明けてくれたのは、2014年1月。当時の関係者に当たり、東電で原子力技術部長を務めた峰松昭義氏が深く関わっていたと知った。すでに退職している峰松氏に電話をかけると、本人があっさり認めた。

「イチエフの1、2号機を廃炉にして新しいプラントにしようと東電の中で検討していました。ABWRIIというんです」

 東電の原発は米ゼネラル・エレクトリック(GE)の沸騰水型炉(BWR)を採用し、後にGEからライセンスを受けた日立製作所や東芝が製造するようになった。やがて東電は、改良型沸騰水型炉(ABWR)をメーカーと開発。世界初のABWRとして1996年、柏崎刈羽原発6号機が運転を開始した。

 ABWRIIは、ABWRの出力を160万~170万キロワットに大型化し、当時の最新の知見に基づく安全対策を施す構想だった。東電は90年代以降、原子力技術部を中心に検討を進め、GEや日立、東芝の技術陣も参画した。

 東電内で関わったのは先の峰松氏と、やはり同部長経験者の尾本彰氏(現東京工業大学特任教授)ら。眼目は、チェルノブイリ事故以降に広がった「受動安全」の採用で、ポンプや駆動源がなくても動く冷却装置が構想された。福島第一原発1号機にも装備され、原子炉の蒸気を冷却して水に戻して原子炉に送るICに加え、同様の仕組みで格納容器を除熱するPCCS、水素爆発を防ぐ水素再結合装置PARも配備する考えだった。東電広報室によると、溶融デブリの保持・冷却といった過酷事故を想定した格納容器の設計も検討されていたという。

 背景には、福島第一原発などの廃炉と建て替えが一時期に集中するという懸念があった。一律60年で廃炉とすると、2030年代後半から50年代まで毎年2千億円前後の費用がかさむ。尾本氏らは老朽原発の廃炉を前倒しし、跡地に経済性に勝るABWRIIの建設を検討した。10年代後半にはABWRII1号機の運転開始を構想していた。

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