それほど、いまの日本には、「子どもを持たない」ことが肩身の狭さにつながる、「子なしハラスメント」とも言える空気が広がっているのだ。

 独身の女医、Cさん(39)が勤務する医局の同僚女性も子育て中の人ばかりだ。Cさんは昔から子どもが苦手で、自分の子どもが欲しいとは一度も思ったことがない。医局でなにかと、親目線が強調される会話が始まると、入る隙がない。

「子どもがいる親としては…」「母親には母性があるから…」

 たとえば、子どもがいなくても、小さな子が犠牲になる事件や事故を知れば、いたたまれない気持ちになる。それなのに「親だから」と線引きされてしまうと、返す言葉もなくなる。知らないくせに。そんな目線を感じる。

 この空気を「子なしハラスメント」と呼ぶCさんは、ハラスメント回避の手段について、「努力しても結婚できず、子どもも持てないかわいそうなおばさんを演じること」だという。子どもが「欲しくない」と言えば、いかにその価値観がおかしいかと否定されるが、「欲しくてもできない」のなら、仕方がないと免除される気がするからだ。

AERA 2015年4月20日号より抜粋